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会社を辞めて旅に出た ~いつのまにか雲南定住~

会社を辞めて旅に出た ~いつのまにか雲南定住~

コレって、ゴクラクチョウ?

コレって、ゴクラクチョウ?

 バリラタ国立公園(*1)2日目、昨日の約束どおり午前6時に待ち合わせ場所へ行った。10分ほど待ってもマネージャーのベンが来ないので彼の家に行ってみると、奥さんが出てきて「彼はまだ寝ている」という。そうか、寝ているのか・・・。海外では約束の時間が守られないことはまあ良くあること。ここでベンを無理に起こすよりも、今後の滞在のことを考えると、マネージャーである彼との良好な関係を維持しておいた方が良さそうだ。そんなわけでトレイルガイドブックを片手に一人で公園内を歩き回ることにした。

国立公園のスタッフ  公園内には5つのトレイルがあり歩きやすいように比較的整備されている。また100m毎に目印の杭が埋められているので安心。しかし公園事務所から遠ざかるにつれてその杭が見当たらなくなってきたが、トレイルの分岐点には各トレイルを示す案内ボードがあるので、森の中で迷うことはなさそうだ。足音をあまり立てないよう静かにゆっくりとトレイルを歩くが、どうも東南アジアの熱帯雨林と比較し鳥の鳴き声が少ないように感じる。この国立公園はそもそも原生林ではなく二次林なので生息する鳥が案外少ないのかもしれない。ゴクラクチョウを本当に見ることが出来るだろうかと少し不安になってきた。

 ゴクラクチョウはフウチョウ科に属する鳥の総称で、世界で43種存在し、そのうちの38種がパプアニューギニアで記録されている。オスは光沢のある色鮮やかな羽根を持ち、特異な求愛ダンスをする習性がある。海外貿易が盛んだった18世紀頃のヨーロッパでは海外の珍しいものが珍重され、ゴクラクチョウもその例外ではなかった。ヨーロッパに持ちこまれたゴクラクチョウの剥製には足が切り落とされてなかったため、木の枝や地上に舞い降りることはなくずっーと空を飛んでいる鳥と考えられ、「バード・オブ・パラダイス」と命名されたのだった。

 そのゴクラクチョウがバリラタ国立公園には6種記録されている。期待を胸にトレイルを静かに歩いていたら、前方に黒っぽいニワトリ大の鳥が地面をつつきながらエサを探して歩いている。気づかれないように姿勢を低くし観察した。手持ちの図鑑で調べたら「Pheasant Pigeon」という地上性の大きなハトだった。森の中に消えていくまでじっくりと観察できたが、気がつくと右手の薬指に痒みを感じた。どうやら蚊に刺されたようだ。「マラリア」という言葉がふと脳裏をかすめる。「そう言えばマラリア予防薬を買っていなかったな」とも思う。まあ大丈夫だろうと思い直し再び歩を進める。

 しばらくすると左前方の高い木の枝を素早く動き回る鳥の影が見えた。枝から枝へと素早く動き、しかも葉っぱや枝の陰になるところに身を隠すのでよく観察できない。大きさ、色、体つきから判断するとどうもゴクラクチョウ(アカカザリフウチョウ)のメスのようだ。しかしはっきりと確認できないうちにその鳥は飛び去ってしまった。その後も幾度か似たような鳥の姿は見かけたものの、いずれもゴクラクチョウと確認できずじまいでその日の観察を終えた。

丘から森を見下ろす  翌日も早朝から一人で森の中のトレイルを歩く。1時間ほど歩いたところでオオウロコフウチョウというゴクラクチョウの仲間が枝の上で羽を振るわせ鳴いているのを発見した。これでようやく1種ゴクラクチョウの仲間を見れたわけだ。満足感に浸りながら双眼鏡で観察を続けていたら、突然頬の辺りにチクリとするような鋭い痛みを感じた。驚いて周囲を見渡すと蜂が私の周りを飛んでいる。蜂に刺されたのだと気づき、ダッシュでそこから逃げた。後で判ったことだが、私がオオウロコフウチョウを観察していた場所のすぐ側の木に蜂が巣を作っていたのだった。1匹か2匹に刺されただけで済んだことは不幸中の幸いだったのかもしれない。かなり腫れはしたけれど・・・。

 昼過ぎにロッジに戻り近くの小川で水浴びをした。ロッジにはシャワールームがなく、国立公園のスタッフ達もその小川で体を洗うのだ。真昼間とはいえ、ここは標高600mほどあるのでちょっと水が冷たい。小川の水はそれほど澄んではいないけれど、2日ぶりに汗を流すことができて気持がさっぱりした。昼食後ロッジのベランダで寛いでいると風が吹き出し、木の梢が大きく揺らぎ始めた。空も少し暗くなってきたようだ。そしてまもなく激しいスコールが降り出した。熱帯のスコールの降り方というのは本当に激しく、日本では1年のうちに1回あるかないかような激しい土砂降りだ。ただ短時間で降り止む点が少し異なる。30分もするとスコールは次第に小降りなり止んだので、再びトレイルを歩くことにした。

 スコールのせいで地面が湿ったせいか、ヒルが地面の枯葉の上で体を直立させ、頭を前後左右に振って獲物を狙っている。時々歩みを止めて足元を確認しヒルが這い上がってくるのを防がねばならない。ヒルに吸い付かれても別段痛くはないが(というか知らぬ間に吸い付かれていることが多い)、その傷口から出血がしばらく止まらない。そのため衣服が血でべっとりになってしまうほどだ。また傷が塞がってからも4、5日はその部分が痒い。まあヒル自体気持悪いし、なるべくなら吸われたくないのだ。

 30分ほど歩いたサバンナエリアで、前方からドスン、ドスンという低い大きな音が聞こえた。急いでその音の方角を見てみるとワラビーが数頭跳び去っていくところだった。パプアニューギニアには大型の肉食獣はいないく、動物地理区分ではオーストラリア区に属する。だからニューギニア島にはカンガルー、ワラビー、クスクス等の有袋類が生息しているのだ。それにしてもある程度大きな動物がピョンピョン飛び跳ねていくのは、見ていてちょっとユーモラスでもあり、また不思議な感じがした。

   ゴクラクチョウの方はどうかというと、昨日はっきりとは確認できなかったアカカザリフウチョウのオスをわずかな時間ではあったが観察することが出来た。しかし動きが速くじっくりと観察することが出来ないのは残念。またこの時期は繁殖期でもないため、オスのディスプレイ(求愛ダンス)も見ることが出来ない。それでもまあゴクラクチョウを見るという当初の目的を達成でき、ささやかながら充実感に浸れたのだった。  次を読む

*1 バリラタ国立公園は首都ポートモレスビーの東方約40Kmに位置する。標高600mを超すソゲリ高原からアストロラベ山地に到る範囲で、その広さは1063ha。気温は1年を通じて変化が少なく、年間降雨寮は1400~2000mm。降雨量は首都のポートモレスビーよりは多いが、他のパプアニューギニアの場所と比較すると少なく、パプアニューギニアの中では比較的乾燥している地域に属する。雨季は12月~4月頃までで、7月から9月にかけて降雨が少ない。



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